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【読書入門】齋藤孝がおすすめする、人間の器を大きくする名著【ブックナビ】

2021年8月25日



今回は、齋藤孝さんの『読書入門 人間の器を大きくする名著』新潮文庫(2007)です。読書に関する本を何冊も執筆されている、齋藤孝さんのブックナビ50冊。どれも齋藤孝さんのお気に入りのものばかりということですが、本当に好きな本を紹介してくださっていることは、この本を読めばわかります。そのブックリスト50冊と、内容の一部を紹介します。


紹介文

この50冊には人生を豊かにする、大きな力がある!確信をもっておすすめできる、バラエティ豊かな名著。著者の魂がじかに響いてくる、人間の大きさをリアルに感じられる作品群。小説、評伝、ノンフィクション、写真集、絵本、漫画、落語、海外文学――五感を解放して心を揺さぶり、わくわく、ゾクゾクさせる、幸福な読書体験があなたを待っています。『齋藤孝のおすすめブックナビ 絶対感動本50』を改題。(裏表紙より)

『読書入門 人間の器を大きくする名著』新潮文庫(2007)/齋藤孝【著】

 

内容紹介

■ 本文は、

齋藤孝さんのおすすめ本50冊を、1冊につき約10ページ位で、本文を引用しながら紹介して行く形式になっています。紹介されている本のジャンルは、自伝・エッセイ、ノンフィクション、身体心理・哲学、歴史、神話の世界、絵本・漫画、文学・小説ほか、と(紹介文通り)バラエティ豊かです。


■ まえがきより、

副題に「人間の器を大きくする名著」とありますが、まえがきには、こう書かれています。

人間は年齢にかかわらずその器を大きくしていくことができると、私は考えています。そして読書体験はそのために非常に役立ってくれるものなのです。(まえがき p.5)

『罪と罰』/ドストエフスキー【著】に出てくる、癖の強い異質な人物を例に、こう続けます。

読書とは、今ある自分とはまったく異なる性質の人間を心のなかに住まわせることであり、その分だけ、自分の器を大きくしてくれるものなのです。(まえがき p.5-6)

そして、今回紹介されている50冊を読む人の為に、読書をするにあたり、重要なことを伝えてくれています。

もちろん読書には、知識を増やしたり、情報を得ることが目的になることもあります。けれども、読書でもっとも重要なのは、自分の心を耕すことであり、心を練り上げていくことにあると思うのです。(まえがき p.6)


■ 個人的に気になった箇所は、

自伝・エッセイ『チャップリン自伝 若き日々』新潮文庫/チャールズ・チャップリン【著】には、こんなエピソードが書かれています。

小林秀雄は、若い頃、自分は文章を書きたくて書いていたのではないと言っていました。あまりに貧乏なことと、同棲中の女を養う必要があったために学生時代からものを書かなければならなかった。しかし、書いているうちに、もう少しましなものを書きたいと思うようになったと言うのです。
小林秀雄にしてもチャップリンにしても、まず生活がある。そのために工夫を凝らしてお金を稼ぐ。その結果として、芸術性の高い作品が生まれる。世の中には、生活のためにする仕事は芸術性が低いという考え方があります。しかし、彼らにとっては生活のために稼ぐことが芸術を生む原動力となっており、それらが相反することはまったくないのです。(p.28-29)

この本を読んでも、当然、小林秀雄の話は出てこないはずですが、小林秀雄のエピソードが交わっています。齋藤孝さん視点の、ここがこの本の要(エッセンス)だ!という箇所(心揺さぶられる点)を引用して解説をし、さらに、このような関連するエピソードまで語ってくれています。齋藤孝さんの教養の広さが伺えます。

 

身体心理・哲学『ツァラトゥストラ』中公文庫/ニーチェ【著】には、この本の読み方についても書かれています。

難解とされるニーチェ。しかし本書は、慣れないうちは通読する必要は必ずしもありません。パラパラと本を開いて、たまたま目にとまった数行を読むのでもいい。つまり「パラ読み」でもいいのです。少量でも劇薬の効果があります。(p.163-164)

パラパラと本を開いて読む、パラ読みでもいいと、齋藤孝さんが言ってくれています。難しい本に遭遇すると、最後まで読めず罪悪感に苛まれることがあったりしますが、このように言ってもらえると、難しいとされる本でも気軽に挑戦できそうな気がしてきます。パラ読みでいいのです。

 

身体心理・哲学『ゲーテとの対話(全3冊)』/ヨハン・ペーター・エッカーマン【著】は、そのニーチェが絶賛した本ということで紹介されていますが、さらに、おすすめする理由が書かれています。

本書がすぐれたビジネス書だと思うからです。ここでは、様々な上達論が述べられています。昨今、様々なビジネス書が話題になり、ベストセラーとなるものもあります。しかし、そうしたものをあたふたと読むよりも、本書をじっくり読んで役立ててほしいと思います。(p.169)

齋藤孝さんの洞察力、物事を抽象的に見る能力が感じられます。どのような視点・目的で本を読む(愉しむ)かというのは自由であり、本当に優れた本(名著)には、普遍的なことが書かれているということを、示唆してくれています。

 

歴史『夜と霧 ドイツ強制収容所の体験記録』/V・E・フランクル【著】では、池田香代子訳の新版と、旧版の霜山徳爾訳の違いについても触れられています。新版は確かに読みやすくなっていると述べながら、同時に、旧版の霜山徳爾訳が当時を物語っていることについても述べられています。こういった、訳の違いに言及されるところにも、本への想いが感じられると思います。

 

文学・小説ほか『謎とき「罪と罰」』/江川卓【著】には、まえがきにも紹介されていた『罪と罰』/ドストエフスキー【著】について書かれています。

私は常々、日本人はみな『罪と罰』を読むべきであり、誰もがこれを読んでいることを前提に話ができるようになればいいと思っています。(p.294)

その理由は、まえがきにも書かれていた通りで、癖の強い人物を自分の中に住まわせ、その感触に慣れることで、自分の器を大きくしてくれるからです。

『罪と罰』を読むときの観点を現実に移すと、世の中にいる人々をやさしい眼差しで見られるようになってきます。「ドストエフスキーの作品に出てくる人間に比べれば、まだマシだ」そう思えるようになるのです。つまり、人間理解が深まり、現実に対して寛大になれるというわけです。(p.295)

他者を理解し、行為することは難しいですが、小説がその手助けをしてくれるかもしれません。備えあれば憂いなし、ということではないかもしれませんが、小説を読んでおられる方は、齋藤孝さんのおっしゃること、わかるところもあるのではないでしょうか。齋藤孝さんをそこまで語らせる『罪と罰』/ドストエフスキー【著】をより理解する、愉しむには、この『謎とき「罪と罰」』/江川卓【著】がおすすめで、謎解きという言葉を侮ってはいけない、文学の愉しみ方を教えてくれるということでした。

 

文学・小説ほか『百年の孤独』/G・ガルシア=マルケス【著】には、小説の読み方についても書かれています。

小説は、なにも一行一句すべてに目を通す必要はありません。読むのが辛いと思っても、その先にまた素晴らしい世界が描かれているかもしれません。途中で放り出してしまっては、その先にある世界と出会う機会を失ってしまいます。それは、とてももったいないことです。作家によっては前半は低調でも、後半からぐっと盛り上がってくる人もいます。そういう場合はぜひ、つまらないと思う部分は飛ばして、面白そうなところだけ読み始めてください。そうして、作品のいいところ、面白いところは逃さないようにしてほしいのです。(p.351)

『ツァラトゥストラ』中公文庫/ニーチェ【著】については、難しかったら、パラ読みしても良いと書かれていましたが、小説についても、つまらないところは読み飛ばして良いと書かれています。作者の手の元から離れた物語は、読者にどう読まれるか、作者の与り知るところではない。しかしながら、どうしても一字一句に目を通し、丁寧に読まなければならない、と思ってしまうことがあるかもしれません。その狭間で揺れる際には、この言葉を思い出すと良いのかもしれません。

 

文学・小説ほか『小説作法』/スティーヴン・キング【著】には、パラ読み、小説の読み方に続く、読書法について書かれています。

私の読書法はページ目から本を読み進めるわけではありません。面白い、あるいやは役に立つところから読み始める。つまらなければ、途中で止めてしまう。こういうく読書法でも、その本のエッセンスだけは汲み取ることができるのです。(p.363)

本を目の前にしてしまうと、当然こう読むべきだと勝手に思い込んでいることがあったりするかもしれません。ですが、目の前にある本によって読み方を変える、もっと柔軟に、本と向き合ってみても良いのかもしれません。この本が単なるブックナビということではなく、読書入門であることに頷けます。


■ 文庫版あとがきには、

本を読む楽しさ、大切さは、読んできた人にしかわからない。本をあまり読んでいない友だちから「本なんてなんで読むの」と言われても、気にしないでどんどん読んでほしい。三十冊超えれば、慣れてくる。百冊超えれば、本が一生の伴侶になる。(文庫版あとがき p.369-370)

と、本を読むことを後押ししてくださる一言が、添えられていました。どんどん本を読みましょう。

 

ブックナビ50冊


自伝・エッセイ
『紫の履歴書』/美輪明宏【著】
『チャップリン自伝 若き日々』新潮文庫/チャールズ・チャップリン【著】
『若き数学者のアメリカ 改版』新潮文庫/藤原正彦【著】
『生きて行く私』中公文庫/宇野千代【著】
『父・こんなこと』新潮文庫/幸田文【著】
『自分の中に毒を持て 新装版』青春文庫/岡本太郎【著】
『色を奏でる』ちくま文庫/志村ふくみ【文】・井上隆雄【写真】

ノンフィクション
『神の肉体清水宏保』/吉井妙子【著】
『もの食う人びと』角川文庫/辺見庸【著】
『聖の青春』角川文庫/大崎善生【著】
『ヨハン・クライフ スペクタクルがフットボールを変える』/ミゲルアンヘル・サントス【著】
『素晴らしきラジオ体操』/高橋秀実【著】
『嬉遊曲、鳴りやまず 斎藤秀雄の生涯』/中丸美繪【著】
『印度放浪』/藤原新也【著】
『パリ左岸のピアノエ房』/T・E・カーハート【著】

身体心理・哲学
『胎児の世界 人類の生命記憶』中公新書/三木成夫【著】
『野口体操 からだに貞く』/野口三千三【著】
『ことばが劈(ひら)かれるとき』ちくま文庫/竹内敏晴【著】
『「いき」の構造 他二篇』岩波文庫/九鬼周造【著】
『開かれた小さな扉 ある自閉児をめぐる愛の記録』/バージニア・M・アクスライン【著】
『ツァラトゥストラ』中公文庫/ニーチェ【著】
『ゲーテとの対話(全3冊)』/ヨハン・ペーター・エッカーマン【著】

歴史
『世に棲む日日』文春文庫/司馬遼太郎【著】
『氷川清話 付勝海舟伝』角川ソフィア文庫/勝海舟【著】勝部真長【編】
『ある明治人の記録 会津人柴五郎の遺書』中公新書/石光真人【編・著】
『夜と霧 ドイツ強制収容所の体験記録』/V・E・フランクル【著】
『望郷と海』/石原吉郎【著】
『腕白小僧がいた』小学館文庫/土門拳【著】

神話の世界
『ギルガメシュ王ものがたり』/ルドミラ・ゼーマン【文・絵】
『リトル・トリー』/フォレスト・カーター【著】
『神話の力』ハヤカワ文庫/ジョーゼフ・キャンベル【著】・ビル・モイヤーズ【著】
『風の博物誌』/ライアル・ワトソン【著】

絵本・漫画
『クレーの絵本』/パウル・クレー【絵】・谷川俊太郎【詩】
『高野文子作品集 絶対安全剃刀』/高野文子【著】
『まんだら屋の良太』/畑中純【著】

文学・小説ほか
『中国行きのスロウ・ボート』中公文庫/村上春樹【著】
『爆発道祖神』/町田康【著】
『風と光と二十の私と』講談社文芸文庫/坂口安吾【著】
『両手いっぱいの言葉 413のアフォリズム』/寺山修司【著】
『謎とき「罪と罰」』/江川卓【著】
『古典落語 志ん生集』ちくま文庫/古今亭志ん生【著】・飯島友治【編】
『ライ麦畑でつかまえて』白水Uブックス/J・D・サリンジャー【著】
『トレインスポッティング』/アーヴィン・ウェルシュ【著】
『悪童日記』ハヤカワepi文庫/アゴタ・クリストフ【著】
『停電の夜に』新潮文庫/ジュンパ・ラヒリ【著】
『欲望という名の電車』新潮文庫/テネシー・ウィリアムズ【著】
『微笑を誘う愛の物語』/ミラン・クンデラ【著】
『百年の孤独』/G・ガルシア=マルケス【著】
『O・ヘンリ短編集』/O・ヘンリ【著】
『小説作法』/スティーヴン・キング【著】

文庫版あとがき
『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(上・下)』新潮文庫/村上春樹【著】
『生かされて。』/イマキュレー・イリバギザ【著】


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ゆきひこ

言葉の渦に溺れがちですが、それでもなんとか呼吸するために、言葉を書いています。潔く憂鬱。

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